聖書の人物

(26)アブサロム(サムエル記下より)

『ダビデは身を震わせ、城門の上の部屋に上って泣いた。彼は上りながらこう言った。「わたしの息子アブサロムよ、わたしの息子よ。わたしの息子アブサロムよ、わたしがお前に代わって死ねばよかった。アブサロム、わたしの息子よ、わたしの息子よ。」』(サムエル記下19・1)

ダビデには合計六人の妻がいたが、その中のひとり(ゲシュルの王タルマイの娘)マアカが産んだアブサロムは、ダビデの三男にあたり、気性が激しい、美貌の王子であった。彼の可憐な妹タマルを、ダビデの長男であった異母兄アムノンが恋したが、彼は悪友のすすめに従い、病気と偽ってタマルを病床に見舞いに来させ、力づくで彼女を犯す。それを知ったアブサロムは激怒し、宴会に兄を招き、酔ったところで彼を殺害した。まったくやりきれないほどのダビデ王家内部のびんらんであるが、事はこれですまない。

母の生地ゲシュルに逃れたアブサロムは、ダビデの怒りが解けた後、エルサレムに戻り、やがて民衆におだてられ父王に対して反乱の兵を挙げた。だが彼の謀反は結局失敗に帰し、騾馬に乗って森の中を逃げる途中、日ごろ自慢にしていた長髪が樫の木の茂みにかかり、宙づりになってしまった。ダビデの軍将ヨアブは投げ槍で彼の心臓を刺し、兵士たちがその止めをさした。

反乱軍壊滅の知らせがダビデに届いたとき、王はそれを喜ぶよりも愛子アブサロムの安否を問う。彼のあわれな最期を使者から聞かされたダビデは、王の面目をかなぐり捨てて嘆き悲しみ、冒頭にしるした悲痛な叫び声をあげたという。これはダビデとアブサロムにおける父子愛憎のきわみを伝える貴重な記録として、また聖書の中の絶妙の名句として世に知られている。(佐伯晴郎著「聖書の人々」より)

この絵は、テリエンの聖書物語に描かれた、樫の木に引っかかったアブサロムの姿です。

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