- 『ダニエルは王が禁令に署名したことを知っていたが、家に帰るといつものとおり二階の部屋に上がり、エルサレムに向かって開かれた窓際にひざまずき、日に三度の祈りと賛美を自分の神にささげた。』(ダニエル書6・11)
- ダニエル書は、旧約聖書のギリシア語訳(70人訳と呼ばれる)では預言書の一つとされており、邦訳はそれに従っているが、ヘブル語原典では諸書の系列に加えられており、預言書というよりはむしろユダヤ教の黙示文学的作品であり、成立年代もずっと後期に属する。
- その前半部分(1〜6章)に登場するダニエルは、イスラエル民族のバビロニア捕囚時代、三人のすぐれた友人とともに、異教の地でのさまざまな誘惑や迫害の中で、主に対する正統的信仰の道を守り通した代表的人物として描かれている。その中の次のような物語は、迫害の時代における信仰者の生き方を教えるものとして有名である。―――バビロニアのダリヨス王の時代、一つの禁令がしかれた。それは、民のあらゆる願いごとや祈りは、ただ王に対してだけ行なうこと、もしも王をおいて神または他の人間に願いごとをする者がおれば、その人を直ちにししの穴に投げ入れる、というものであった。これは敬虔なダニエルを日ごろ憎んでいた人びとがしかけたわなであったが、気の弱いダリヨス王はダニエルの身の上を案じつつも、王の威厳を保つためにそれに署名してしまった。ダニエルはこの禁令が発布されたことを知っていたが、彼自身の信仰生活をまったく変えず、以前から行なっていたとおり日に三度ずつ、主なる神に祈りをささげた。彼をおとし入れようとしていた人々は、ダニエルが禁令を破っていると王に告げ、王はやむなくダニエルをししの穴に投げこむように命じた。しかし、神がししの口を閉ざされたので、穴の中のダニエルは無事であった。王はダニエルを穴から出し、彼を訴えた人びとを代わりに穴に投げ込むと、ししは彼らにとびかかって、彼らをかみくだいた―――。(佐伯晴郎著「聖書の人々」より)
- この絵は、ビザンチン時代のモザイクです。
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