- 『ユダヤの王ヘロデの時代、アビヤ組の祭司にザカリアという人がいた。その妻はアロン家の娘の一人で、名をエリサベトといった。二人とも神の前に正しい人で、主の掟と定めをすべて守り、非のうちどころがなかった。しかし、エリサベトは不妊の女だったので、彼らには、子供がなく、二人とも既に年をとっていた。』(ルカ1・5〜7)
- 新約聖書のはじめにおかれている四つの福音書(マタイ、マルコ、ルカ、ヨハネ)は、イエスの生と死と復活の記録である。それらの著者や文体、書かれた年代や場所、その読者対象などはそれぞれ異なっているが、大まかに言って、マルコがもっとも古く60年代に最初の福音書として書かれ、このマルコおよび別な諸資料(とくにイエスの語録)に基づいて、マタイとルカが80年〜90年ころ書かれた。そのうちルカは教養あるギリシア人として、イエスに関する資料をできるだけ多く集め、それらを「順序正しく」編集し、彼自身の福音書を書き上げた(ルカ1・1〜4参照)。
- 祭司ザカリアとエリサベトの物語は、他の福音書にはないルカ独特のものである。ザカリアは当番制でその役目をはたす身分の低い祭司であったが、妻と共にイスラエルの伝統的な宗教生活をまじめに守っていた。だがふたりは子どもに恵まれないまま、もはや老い先短い生涯を終わろうとしていた。人の世のどこにも見られるような、律義ではあるが一生貧しい生活に甘んじねばならぬわびしい老夫婦、このふたりの上におどろくべきことが起こった。それは老妻エリサベトの奇跡的な懐妊であった。夫の狼狽にひきくらべ、エリサベトは妊娠五か月の腹をかかえて神に感謝して「主は今こそ、こうして、わたしに目を留め、人々の間からわたしの恥を取り去ってくださいました」(1・25)と。彼女から生まれ出た男の子は、やがてイスラエルの中に注目すべき洗礼運動を起こし、イエスの先駆者となった、バプテスマのヨハネであると言われる。(佐伯晴郎著「聖書の人々」より)
- この絵は、15世紀のフラ・アンジェリコの「聖母マリアのエリサベト訪問」の絵です。右がエリサベト。
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