- 『イエス・キリストの誕生の次第は次のようであった。母マリアはヨセフと婚約していたが、二人が一緒になる前に、聖霊によって身ごもっていることが明らかになった。夫ヨセフは正しい人であったので、マリアのことを表ざたにするのを望まず、ひそかに縁を切ろうと決心した。』(マタイ1・18〜19)
- ヨセフはナザレの大工であった(マタイ13・55)。この大工という職名は「建築業における木工作業というより、指物師の表示」と解釈される。彼らの収入は当時、一般の労務者よりは多かったが、それは必ずしも生活程度の高さを意味するものではなく、必要に応じて働く日雇い職人としての彼らの、収入不安定に対する保障のせいであった(L・ショットロフ)。
- ヨセフはまだ若年の、貧しい、田舎の職人であった。きまじめな童貞の彼が、愛する婚約者マリアの妊娠の事実を知ったときの困惑は想像にあまる。彼は夜も眠れずに思い悩み、ついにマリアとの婚約を解消し、彼女を遠くへ移住させてその恥が公にならないようにしようと決心した。それが心やさしい彼にできるせい一杯の配慮であった。だがおどろくべきことに、彼はすべてを思いなおし、人目を恐れずこのマリアと結婚するのである。それは、夢に聞いた御使のお告げによるとマタイは述べているが、ヨセフとしては大勇断であった。こうして、マリアがみごもったいと小さき胎児イエスの生命は闇に葬られることなく、生まれ出てマリアの私生児ともならず、ヨセフの子(「完全養子」)とされ、人々にもそのように思われることになった(ルカ3・23)。この事実は、中絶天国の汚名を冠せられた日本の実状やマザーテレサの愛の実践と重ね合わせてみるとき、非常に感動的な現代性をおびている。(佐伯晴郎著「聖書の人々」より)
- この絵は、ホセ・デ・リベラ作「聖ヨセフと少年イエス」という題で、マドリッドのプラド美術館にあります。
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