聖書の人物

(50)マタイ(マルコ福音書より)

『イエスは、再び湖のほとりに出て行かれた。群衆が皆そばに集まって来たので、イエスは教えられた。そして通りがかりに、アルファイの子レビが収税所に座っているのを見かけて、「わたしに従いなさい」と言われた。彼は立ち上がってイエスに従った。』(マルコ2・13〜14)

アルファイの子レビは、マタイ福音書9・9の徴税人マタイと同一人物である。彼はカファルナウムの町の徴税人であったが、ペトロのようにイエスに呼びかけられてその弟子となった。徴税人(テローネース)とは、ローマ帝国の税金取り立てをする請負人に雇われていた手先で、社会的には非常に低い階級にあった。彼らのボスである請負人は、定められた税額以上に民衆からしぼり取って私腹をこやしたが、その下働きをする徴税人らはそのおこぼれに与かるというわけでもなく、安い日当に甘んじ、しかも民衆の非難や排斥はもろに被るという、いたってみじめな立場であった。だが一世紀前半のパレスチナにおいては、ローマの課する重税に加えて社会的、経済的な貧窮により、失業者は群がり、徴税人に身を落とす者の数は多かったと言われる。

イエスの招きは、社会的に安定していた人々にではなく、むしろこれら徴税人のように、社会の溝に落ち込んで苦悩していた人間に対して向けられた。マタイの具体的な働きについて、福音書は何もしるしていない。彼がマタイ福音書を書いたということも言い伝えにすぎず、史実的確証はない。しかし、イエスの中心的な弟子のひとりがこのような職種の人(徴税請負人の手先)であったという事実は、ただそのことだけでも、今日の富める社会のキリスト教徒との対比において、十分すぎるほどの意味がある。(佐伯晴郎著「聖書の人々」より)

この絵は、「聖マタイと天使」という題です。フランスの聖ルイ教会にあります。

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