聖書の人物

(56)

ゲラサの狂人(マルコ福音書より)

『一行は、湖の向こう岸にあるゲラサ人の地方に着いた。イエスが舟から上がられるとすぐに、汚れた霊に取りつかれた人が墓場からやって来た。この人は墓場を住まいとしており、もはやだれも、鎖を用いてさえつなぎとめておくことはできなかった。これまでにも度々足枷や鎖で縛られたが、鎖は引きちぎり足枷は砕いてしまい、だれも彼を縛っておくことはできなかったのである。彼は昼も夜も墓場や山で叫んだり、石で自分を打ちたたいたりしていた。』(マルコ5・1〜5)

福音書に記録されたイエスの多くのいやしの物語の中で、おそらく解釈のもっとも困難なもののひとつは、このゲラサの狂人の場合であろう。ここではまったく手のつけられない狂暴なひとりの精神異常者が、イエスによって『悪霊』を追い出され、猫のようにおとなしくなったということが書かれている。しかもそのさい、追い出された悪霊どもは2000匹もの豚の群れにのりうつり、豚は狂乱してがけから湖の中になだれこみ、おぼれ死んでしまった、というのである。

これは単なるひとつの出来事の記録ではなく、古代のいくつかの伝承が重なり合ったものと考えられる。しかしいずれにせよ、このようなダイナミックな物語において私たちは、人びとがナザレのイエスのおどろくべき奇跡的な行為に接し、その力をまざまざと経験したこと・・・・・少なくともそのことが強調されて伝承されたこと・・・・・を知らされる。「疑いもなくイエスは、さまざまないやしのわざを行なった。とはいえ私たちは、それがどの程度まで事実であったか、また心理学的な『説明』がどの程度に可能であるかといった問題については、私もはや確証することができない」(E・シュヴァイツァー)(佐伯晴郎著「聖書の人々」より)

『ゲラサの地』はいくつか説があるが、これはそのひとつでクルスィの遺跡。豚の群れがなだれ下ったといわれる崖が見える。

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