聖書の人物

(61)

ベタニアのラザロ(ヨハネ福音書より)

『ある病人がいた。マリアとその姉妹マルタの村、ベタニアの出身で、ラザロといった。このマリアは主に香油を塗り、髪の毛で主の足をぬぐった女である。その兄弟ラザロが病気であった。姉妹たちはイエスのもとに人をやって、「主よ、あなたの愛しておられる者が病気なのです」と言わせた。イエスは、それを聞いて言われた。「この病気は死で終わるものではない。神の栄光のためである。神の子がそれによって栄光を受けるのである。」』(ヨハネ11・1〜4)

ヨハネ福音書によれば、前出のマルタとマリアには、ラザロという名の弟がいたが、彼がひん死の病いにかかった。姉妹たちはイエスに急を知らせるが、彼は「この病いは死に至らず」と言い、なお二日ばかりそのいた所を動かなかった。その間にラザロは死に、イエスが到着したときはすでに四日後で、墓の中の死体はすでに腐蝕していた。妹マリアはイエスに、「主よ、もしあなたがここにいて下さったなら、わたしの兄弟は死ななかったでしょう」と言って、泣きくずれる。そのとき、「イエスは涙を流された」という意味深重な記述が残されている(11・35)。

やがて彼は、人びとと共にラザロの墓に向かう。そして墓を閉じている石の戸を取りのけさせ、天を仰いで祈った後、大声で「ラザロよ、出てきなさい」と呼ばわると、「死人は手足を布でまかれ、顔も顔おおいで包まれたまま、出てきた」という(11・44)。これは、イエスの奇跡的能力が、肉体の死という、人間にとっての絶対的限界をも突き破るたぐいのものであったことを告げる貴重な伝承である。ドストエフスキーの名作『罪と罰』の中に、殺人の罪を犯した大学生ラスコーリニコフが、清純の娼婦ソーニャの朗読するヨハネ福音書11章の物語を聞いているうちに改心するという感動的な場面がある。(佐伯晴郎著「聖書の人々」より)

この絵は、フロマンの「ラザロの三翼祭壇画」の中央の「ラザロの復活」の絵の一部です。フィレンツェのウフィツィ美術館にあります。

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