聖書の人物

(62)

ナインのやもめ(ルカ福音書より)

『それから間もなく、イエスはナインという町に行かれた。弟子たちや大勢の群衆も一緒であった。イエスが町の門に近づかれると、ちょうど、ある母親の一人息子が死んで、棺が担ぎ出されるところだった。その母親はやもめであって、町の人が大勢そばに付き添っていた。』(ルカ7・11〜12)

ラザロの場合はイエスの「愛しておられる者」を墓からよみがえらせる話であるが、ルカのこのテキストでは、ある若者を、その葬列の中でよみがえらせたという話が伝えられている。彼はひとり息子で、母はわびしいやもめであった。両者はたがいにかけがえのない者同士であり、そのどちらかが失われても悲しみは大きい。イエスは、悲嘆にくれていたこの母を見て、『はらわたをえぐられるような』同情を抱き(原意)、死んだ若者をよみがえらせる。彼は墓場に向かう葬列を停止させ、近づいて棺に手をかけ、「若者よ、さあ、起きなさい」と呼びかけるのである。「すると、死人が起き上がって物を言い出した」(7・15)

死人のよみがえり ――それは当時の人びとに恐怖を抱かせる奇跡であっただろう。そして現代的な教育を受けた私たちには、ただ困惑か懐疑か、冷笑しかもたらさないかもしれない。このことの事実性については、実証も確認できないからである。だがそれにもかかわらず、この物語が伝えるひとつの真実は私たちの胸を打つ。それは、イエスが(あの預言者エレミヤのように)、はらわたをえぐられるような痛みを持ってこの見知らぬ悲しみの母と連帯し、同時にその絶望を克服するいのちの言葉を語ったことである。私たちにこういうことはできない。(佐伯晴郎著「聖書の人々」より)

この絵は、テリエンの聖書物語の挿絵の部です。

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