聖書の人物

(69)

大祭司カイアファ(マルコ福音書より)

『しかし、イエスは黙り続け何もお答えにならなかった。そこで、重ねて大祭司は尋ね、「お前はほむべき方の子、メシアなのか」と言った。』(マルコ14・61)

イエスはエルサレムで捕えられ、最高法院で審問を受けた。この最高法院の定員は70名(祭司24人、長老24人、学者22人)で構成され、国民の宗教生活の指導監督を主務としたが、民事、刑事も(死刑執行を除き)処理していた。その議長は現職の大祭司がつとめたが、当時その職にあり(後18〜36年)、イエスをみずから訊問したのがカイアファであった。

イエスの宣教活動は、ローマの圧政のもとでひたすら平穏無事を願う保守的な宗教家たちの間では、以前から問題視されてきた。ヨハネ福音書によれば、大祭司カイアファは、人民の安全のためにイエスは殺されるべき人であることをほのめかしているが(11・45以下、18・14)、ついにその時がきた。イエスを訴える多くの証言が必ずしも一致せず、議場が混乱しかけたとき、カイアファは肩をそびやかしてイエスに問うた、「あなたはほむべき者(神への尊称)の子、キリスト(救世主)であるか」と。それに対するイエスの答えは、各福音書によって異なった表現になっているが、いずれにせよ肯定的であったことはまちがいない。大祭司はそれを聞くと衣を引き裂き、「どうして、これ以上、証人の必要があろう。あなたがたはこのけがし言を聞いた。あなたがたの意見はどうか」と叫び、議会はただちにイエスを死に当たるものと断定したからである。こうしてイエスは、議会から、死刑執行の権限を有するローマ総督ピラトのもとへ送られたのである。

イエスと同時代の宗教の最高責任者とその神学中枢の代表者たちとが、イエスを殺す決定をしたことは、単なるカイアファの誤審とか当時のユダヤ教の過ちといったことにはとどまらない。それは、人類の歴史におけるもっとも逆説的な意味をもつ出来事であった。(佐伯晴郎著「聖書の人々」より)

この絵は、河出書房新社の「聖書の時代」に出てくる大祭司の挿絵です。出エジプト記39章あたりを読むと、この服装について理解できるでしょう。

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