(75) 十字架のもとの百人隊長(マルコ福音書より)
十字架のもとの百人隊長(マルコ福音書より)
『イエスは大声を出して息を引き取られた。すると、神殿の垂れ幕が上から下まで真っ二つに裂けた。百人隊長がイエスの方を向いて、そばに立っていた。そして、イエスがこのように息を引き取られたのを見て、「本当に、この人は神の子だった」と言った。』(マルコ15・37〜39) イエスの十字架のそばにローマの百人隊長が立っていたことは、イエスが政治犯として処刑されたことを証明する。百人隊長とはローマの将校で、50〜100人程度の兵士の長であった。彼はピラトの命により、万が一にも起こりうる民衆の暴動に備えて刑場を監視していたのであろう。だが何ごとも起こらず、イエスはひとりの無力な死刑囚として、断末魔の叫びをあげて息たえた。 このイエスの死にざまは、十字架に向かって立っていたこの百人隊長に深い感動を与えたらしい。彼は「本当に、この人は神の子だった」と、思わずつぶやいた。彼は要するにローマの軍人であり、受刑者イエスの最後を見守り、処刑がつつがなく行なわれたことを見届けされすれば、それで彼の任務は終わったはずであった。今やそれを果たした ―― そのとき、十字架につけられてから息を引きとるまでのイエスの表情を役目上注視していたこの百人隊長の胸中に、言い知れぬ熱い感動が横切った。それが彼の言葉となって出た。イエスの生涯のこの時期に、この場面で、「本当に、この人は神の子だった」と口に出して言い得た人はこの百人隊長だけであった。(佐伯晴郎著「聖書の人々」より) この絵は、今回の聖書の場面ではなく、使徒言行録10章のコルネリウスという信仰心の篤いローマの百人隊長が、ペトロの前にひざまずいている場面です。テリエンの聖書物語に出てくる挿絵です。