聖書の人物

(77)

 マグダラのマリア(ヨハネ福音書より)

『マリアは墓の外に立って泣いていた。泣きながら身をかがめて墓の中を見ると、イエスの遺体の置いてあった所に、白い衣を着た二人の天使が見えた。一人は頭の方に、もう一人は足の方に座っていた。天使たちが、「婦人よ、なぜ泣いているのか」と言うと、マリアは言った。「わたしの主が取り去られました。どこに置かれているのか、わたしには分かりません。」こう言いながら後ろを振り向くと、イエスの立っておられるのが見えた。しかし、それがイエスだとは分からなかった。イエスは言われた。「婦人よ、なぜ泣いているのか。だれを捜しているのか。」マリアは、園丁だと思って言った。「あなたがあの方を運び去ったのでしたら、どこに置いたのか教えてください。わたしが、あの方を引き取ります。」イエスが、「マリア」と言われると、彼女は振り向いて、ヘブライ語で、「ラボニ」と言った。「先生」という意味である。イエスは言われた。「わたしにすがりつくのはよしなさい。まだ父のもとへ上っていないのだから。わたしの兄弟たちのところへ行って、こう言いなさい。『わたしの父であり、あなたがたの父である方、また、わたしの神であり、あなたがたの神である方のところへわたしは上る』と。」』(ヨハネ20・11〜17)

マグダラとは、ガリラヤ湖西岸の町の名である。漁業の中心地でギリシア人も住んでおり、商業もさかんで、売春業でも知られていた。その関係からか、通俗的にはマグダラのマリアは、ルカ7・36以下に出てくる「罪の女」としばしば同一視される。が、両者は別人である。

マグダラのマリヤの名は、ルカ8・1以下の、イエスに従いその持ち物をもって一行に奉仕した「婦人たち」の筆頭に挙げられている。彼女らは社会的地位もあり、裕福な女たちであった。「七つの悪霊を追い出してもらったマグダラと呼ばれるマリア」とは、おそらく彼女がかつて重い精神分裂症をわずらっており、それをイエスにいやしてもらったことを意味するのであろう。

彼女はイエスを心から敬愛する者となり、エルサレムにまでついて行き、イエスが十字架にかけられたときには遠くから息をひそめてそれを眺め、その葬りの場も目撃した(マルコ5・40、47)。そして、安息日が終わり、日曜日の早朝、彼女は何人かの女たちと共にイエスの墓に行くが、ヨハネ福音書によれば、このマグダラのマリアひとりが、最初に、復活したイエスに会うのである。

この出会いは、かつて強度の精神分裂症患者であった彼女が、イエスの惨死によって大きなショックを受け、病気を再発させて幻覚のイエスを見たことではなかろうか、といった合理的な説明をする人もいる。

しかし、「わたしにさわってはいげない」というイエスの言葉の原意は、「わたしにさわりつづけていてはならない」「わたしにとりすがっているのをやめよ」という意味である。したがって、ヨハネの証言によれば、(私たちが好むと好まないとにかかわらず)マグダラのマリアは復活のイエスのからだに触れ、それに抱きついていた、ということになる(マタイ28・9参照)。とにかくイエス復活の最初の証人は、こうした形での、女性(たち)であった。(佐伯晴郎著「聖書の人々」より)

この絵真は、クルヴェルリの描いたマグダラのマリアで、アムステルダム市立美術館にあります。

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