聖書の人物

(94)

 ルカ(ルカ福音書より)

『わたしたちの間で実現した事柄について、最初から目撃して御言葉のために働いた人々がわたしたちに伝えたとおりに、物語を書き連ねようと、多くの人々が既に手を着けています。そこで、敬愛するテオフィロさま、わたしもすべての事を初めから詳しく調べていますので、順序正しく書いてあなたに献呈するのがよいと思いました。』(ルカ1・1〜3)

初代教会にギリシア人の医者でルカという名の信徒がいた。彼は多分シリアのアンテオケの出身で、バウロやバルナバの伝道に接して入信した人と思われる。パウロの伝道旅行に参加し、親しい指導を受けるとともに、異邦人伝道の協力者として積極的な貢献をしている。パウロはトロアスで夢のマケドニヤ人の言葉を聞いて、ヨーロッパヘ渡るが、そのマケドニヤ人とはルカのことである、という説もある。医者としての彼の同行は、健康にさほど自信のなかったパウロにとって(Uコリント12・7以下、ガラテヤ4・13以下参照)、どんなに大きた支えであり慰めであっただろうか。とくに晩年のバウロにとり、ルカはまさに「愛する医者ルカ」(コロサイ4・14)であり、「わたしの同労者たち」のひとりであり(フィレモン24節)、また「ただルカだけが、わたしのもとにいる」(Uテモテ4・11)と言われるような人であった。

またルカは、パウロの伝道の協力者としてだけでなく、新約聖書に収められた二大文書、ルカによる福音書と使徒言行録の著者として、不朽の足跡を人類の歴史に残した。イエスの生涯を、数々の貴重な資料を取り揃え、「順序正しく」、興味ぶかく書きつづったルカ福音書は、ルナンをして「かつて書かれた文書の中で最も美しい書」と語らしめている。またその第二巻として、初代教会の発展の歴史をその内側から記録した使徒言行録は、1世紀に書かれた信仰と歴史の書として比類ない価値を有している。これら二書を合わせると現行新約聖書409べージ中、104ページであり、新約聖書の約4分の1余りを、ひとりの異邦人信徒が書いだということは、それ自体おどろくべき業績と言えよう。その人こそ、このルカであった。(佐伯晴郎著「聖書の人々」より)

絵は、ルカを描いたモザイクです。
聖書の人物