聖書の人物

(78)

 クレオパ(ルカ福音書より)

『イエスは、「歩きながら、やり取りしているその話は何のことですか」と言われた。二人は暗い顔をして立ち止まった。その一人のクレオパという人が答えた。「エルサレムに滞在していながら、この数日そこで起こったことを、あなただけはご存じなかったのですか。」』(ルカ24・17〜18)

ルカ福音書24・13以下にしるされている「エマオ途上の出来事」は、非常に劇的で感銘ぶかい、イエス復活に関する記録である。マグダラのマリアらがイエスの墓を訪ねた日の午後、イエスのふたりの弟子がエルサレム郊外のエマオという村へ行く途中、ひとりの見知らぬ旅人と一同行した。実はこの人が、復活したイエスであったという話である。

このような経験をしたふたりの弟子とは、いわゆる十二弟子に属する人びとではなかったが、その中のひとりの名はクレオバといった。ルカはおそらく彼からこの話を直接に取材したのであろう。それだけにこの神秘的な話にも強烈な史実性の香りがただよっている。

イエスについて語り合い論じ合いつつ、道を歩んでいたふたりの弟子のそばに、いつのまにか見知らぬ旅人が近づき、彼らに同行した。「歩きなが互いに語り合っているその話は、何のことですか」という彼の問いに、ふたりは悲しそうな顔をして立ちどまり、その見知らぬ人を眺めた。エルサレム内外の人々の耳目を集めたあのナザレのイエスの事件について、この人は何ひとつ知らぬかのようであった。彼らはこの見知らぬ人に、イエスのことをくわしく語り聞かせた。だが語るほど、イエスのことは彼ら自身にとってもまったくわからない謎であり、疑念と当惑が深まるばかりであった。

このふたりの弟子に、見知らぬ人は、静かに旧約聖書を説いた。やがて夕暮近く、一行はエマオの村についた。家に入って夕食の席についた時、一瞬の中に、この見知らぬ人がイエスであることが彼らにわかった。そして同時に、イエスの姿は彼らの視界から消えた。しかし彼らふたりは、この人と共に道を歩んだときの“心うちに燃ゆる”体験を、互いに喜び合った、という。これはきわめてユニークなイエス復活の証言であり、あらゆる時代の人々の心に熱く語りかげてくる物語である。(佐伯晴郎著「聖書の人々」より)

この絵は、テリエンの聖書物語に出てくる、エマオ途上のイエスとの出会いである。

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